製薬企業所属の医師だからこそできる患者さんへの貢献のありかた―製薬企業の社員(non-MD)からの視点①-6

その六:企業内医師(MD)との信頼関係が成功の秘訣

さらにもう一歩踏み込むと、多分に私見を含みますが、私がやっていたプロマネと社内医師の関係性は、社内医師の存在価値を最大限に高めるために特に重要であり、例えるならば野球におけるバッテリー、あるいは究極的には夫婦のような、互いに欠かせない一対の濃密な関係だと考えています。ご承知の通り、企業における医薬品開発は、医学や科学の面のみならず、多面的な観点での計画立案と実行が成功の必須条件となります。主な例を挙げるだけでも、法令順守、薬事戦略、データの品質、製品の品質、コスト・時間の管理、ビジネス面(想定される売り上げ)、製品の差別化と競合戦略、最近は新規テクノロジーの活用も大きなテーマです。どれだけ優秀な医師でもこれを一人ですべて切り盛りするのは事実上不可能であり、そこで活用できるのがプロマネなのです。社内医師は医学・科学的戦略のリードを行う、プロマネは予算とオペレーション面を担当して戦略を計画実行に落とし込む、二人でタッグを組んで様々な分野の専門家からなるチームメンバーをまとめあげ、チームとして成果を二倍三倍に高めていく、というのが私の理想とする医薬品開発像で、これを目指して仕事をしていました。特に意識したのは、パートナーである社内医師が医学的にやるべきと考えていることをよく理解し、そのために必要な予算や人員を確保、経営陣や他部署との同意を取り付けるためのコーディネートを行い、時には会社から突き付けられる無茶な条件の中で最大限できることを見つける方策を一緒に考え、様々な形での協業をやりました。私に言わせれば、社内医師のやりたいことを限られたリソースで実現することが、プロマネの成功基準だ、ぐらいに思っています。「あなたのおかげでこの医学的に意義の高い薬を世に出すことができたよ」というようなことを社内医師から言われたことがあります。プロマネとして至福の経験です。

社内医師の日常をご紹介するエピソードも少し交えます。社内医師は、医師と言えども会社員でもあります。医師がこんなこともせねばならないのか、という業務は、正直申し上げて、あると思います。また、医師であるからこそ他の社員からの期待値も高く、色々な業務依頼が舞い込み、多忙な職務であることも事実かと思います。仲良くさせていただいていたある社内医師の方から、「石川さん、あなた私にどれだけ仕事させれば気が済むんだ」と笑いながら言われたことがあります。目は笑ってなかったかもしれませんが。私は「先生(当時はそう呼んでいました)、この薬が承認されるまでです。やってくださいね!お願いします!」なんて生意気なことをずけずけと申し上げました。その方はとても寛容な方だったので怒られることもなかったのですが、後から考えると私自身ヒヤッとします。それでもそのプロジェクトはなんとか前に進み、最終的に承認を勝ち取ることができたのですが、その社内医師の方と私の間にできた信頼関係があってこそ継続、達成できたと思っています。