MAの歩き方(その5)

前回は組織の7Sが「ハードのS」と「ソフトのS」に分かれている事を解説いたしました。以下順に追ってそれぞれ説明します。この7つの枠組みを知っておくと、皆さんが管理職になって組織をデザインする時、自分のチームの体制を整える時、Objective settingの時に役に立ちます。

ハードのS①戦略(Strategy)
会社で働いていると「戦略」という言葉を良く耳にします。私は組織の中では「戦略」という言葉が過剰に使用されていると感じていますが、「戦略」という言葉の響きはなんだかカッコイイと思われているのか、もはやなんでも「戦略」です。

私が臨床現場を離れて会社員になった時に、「戦略」という言葉を聞いても正直よくわかりませんでした。会議で私が「戦略」を披露すると、上司や同僚から「いや、それは戦術でしょ」とか「その戦略は筋が良くない」とか言われて、混乱の極みでした。いや、戦略ってなんなのよと。

実は同僚や上司も、「これが戦略だ!」と明示的に示してくれたりはしなかったんですね。皆さん経験豊富なので暗黙知として「戦略とはこんな感じ」という共通の認識があって、それに従ってお仕事をしていたので、素人が分かるように説明する事は出来なかったわけです。

ある時友人(経営コンサルタント)と夏フグを食べながらビールを飲んでいたのですが、じつは戦略とは。。

「自分の強みを生かして継続的な競合優位性を生み出すための全体最適化の枠組み」である事を学びました。そうか、枠組みが戦略なんだと。ですのでピンポイントで「Investigators meetingを追加でやってリクルートを強力にお願いします」とかは戦術という事を学びました。

ですので以下の4つの原則があります

①自分の不得意な分野に手を出すのは筋ワル(変な新規事業によく準備せずに手を出して失敗)
②その場限りしか効かない戦略も筋ワル(大ピンチでつい手を出してしまう事は結構ある。。)
③競合優位性なし(つまり差別化されていないこと)も筋ワル
④局所的な戦略も筋ワル(例:会社の特定の部門にとってベネフィットが大きいが、他の部門にダメージ大。ガン細胞は叩き切ったが副作用で亡くなってしまった。)

さらに、この背後には必ずリソースの問題が控えています。自分が保有しているリソースに限りがある中で、上記4原則を満たす戦略を作るのは、中々一筋縄ではいきません。限られた時間で発散と収束を繰り返して非線形な思考でよりよい戦略に近づいていくというメッセージです。

じつは良い戦略を作り上げるにはリーダーシップも必要です。上記4原則+リソース制限=トレードオフなので、良い戦略を作るには「やらない事」を決めなくてはいけません。これは人々の心とか価値観を結構揺さぶります。自分が情熱を傾けて一生懸命やっている事が、「あ、今回はいいです」みたいにサラリと言われて納得できる人は多くはないです。また会社では「仕事がなくなって失職」という懸念もあるので、あまりメリハリをつけて欲しくない人もいます。それから戦略的に「選択と集中」を行うと、時々失敗する事があります。後付けで批判されたくないので、「あれもこれも」としたくなるのも人情です。良い戦略を作る場合は、多少なりとも変革が必要なるので、ここはリーダーシップが必要とされます。

某大学病院で電子カルテシステムを導入しようとしたのですが、院内の意見がどうしても統一できず、大手ITベンダーと約束した仕様凍結合意期限を守れずに、開発が頓挫したケースがありました。最終的には裁判になってITベンダーが逆転勝訴したのですが、実はこのケースは「あれもこれも」vs「選択と集中」問題で、最終的には院内のリーダーシップの総量の問題に帰着すると感じています。次回は組織構造について解説します。

(続く)