製薬企業所属の医師だからこそできる患者さんへの貢献のありかた―製薬企業の社員(non-MD)からの視点①-5

その五:企業内医師(MD)は頼りがいのあるチームメイト

私が二社目に努めた会社ではプロジェクトマネージャー(以下、プロマネ)として多くの日本人の社内医師の方々と仕事をする機会に恵まれました。「先生方」ではなくあえて「方々」と書いたのには訳があります。社内医師の周囲の社員は社内医師に対して、医師に対する一定のリスペクトは当然持っているのですが、社内協業においては顧客目線でなく同僚目線である方が望ましく、先生という呼称は時に邪魔をすることがあります。その会社では、ある時から社内医師を「○○先生」ではなく「○○さん」と呼ぼうという取り組みをしました。そのことで社内医師も社員も、医師と医師でない人という関係性を一度横に置き、社内医師も一人の頼りになる同僚として協業し、医薬品開発に関するオープンな意見を交わすことのできる関係構築を行ったのです。

私を含む周りのメンバーも皆最初は、「○○先生」と呼んでいた人をある日突然「○○さん」にするのには心理的抵抗がありました。しかしこれをやり始めると、チームメンバーが社内医師に接する際のビヘイビアが明らかに変化し、医学とは異なった視点の意見を率直に忌憚なく話すことが自然となります。一方、社内医師の方のビヘイビアも変化します。自身の考えを「教える」のではなく同僚として周囲に接するようになり、なぜ自身の意見が受け入れられるときと受け入れられない時があるのか、なぜ周りの人間と医師との意見の相違が起こるのか、などを理解しやすい環境が生まれます。その結果として、社内医師がチームメンバーに医学的な説明を行う際も、より幅広い視点を踏まえた伝え方をできるようになります。チームメンバーは、「社内医師が言うから」ではなく、「専門家の意見が妥当で納得できるから」受け入れをしやすい、という好循環が生まれます。面白いことに、その関係性が定着すると、社内医師が臨床試験デザインの医学的意義を一生懸命説かずとも、逆にチームメンバーが自ら社内医師の専門知識を積極的に活かして臨床試験デザインを完成させようとするという構図が出来上がります。社内医師の呼び方は関係性構築のための一手段であって本質ではないのですが、社内医師と周りのメンバーが相互理解を深めてチームとしての相乗効果を生むための施策の一つとしてうまくいった事例だったと思います。