製薬企業所属の医師だからこそできる患者さんへの貢献のありかた―製薬企業の社員(non-MD)からの視点①-2
その二:企業内医師(MD)の存在意義とは
このように社内医師というのは企業側にメリットをもたらすと思うのですが、一方社内医師ご自身にとって企業で働くことのメリットはあるのでしょうか。私の知り合いのエピソードを紹介します。ある同僚の日本人社内医師に、なぜ製薬企業で働くことを選ばれたのか、お話を伺ったことがあります。「病院で医療行為を行う仕事が嫌になったのではない。(実際今でも会社勤めされながら週末は兼業で患者さんを診られています。)一医師として患者さんと向き合う仕事は尊いが、しかし救える患者の数はどうしても限界がある。薬の開発は、うまくいけばそれだけで何百万人、何千万人という患者を救うことが可能だ。そして、医薬品開発には医師にしかできない部分があることを友人(その医師の学生時代の同級生、先に企業勤めでご活躍)から学んだ。一度きりの人生、医師としてできるだけ大きなものに挑んでみたかった。」これがその医師のお話の主旨だったと記憶しています。そして、実際に企業で働いてみて、その通り実現できていますか、と聞いてみました。その医師曰く、「まだ色々挑戦し続けている最中だからね、答えはまだ分からないけど、少なくともいくつかの薬は世に出したし、ビジネスの視点もかなり高いレベルで身に着けることができたし、一医師としては会うこともなかったであろう高名なKOLや厚生労働省の高官とハイレベルな討議をする機会も得たし、欧米の当局の考え方の理解も深まったし、英語は苦労しながらも海外の同僚と密に協働できるようになったし、会社にも業績として○○○億円の貸しを作ったし(笑)、今のところはやりがいも達成感も感じていて、これでよかったと感じているよ。」というお答え。何年も前のお話なので細部は正確でないかもしれませんが、そういうお話だったと思います。
では一方、日本国内の医薬品業界における実情はどうかと考えると、社内医師の活用の度合いは会社によって異なっているのが現状のように思います。なぜ会社によってやりかたがここまで違うのでしょうか。私の意見では、特に社内医師の活用が進んでいない企業の場合、企業側と社内医師それぞれに誤解や不理解があることが背景にあると考えています。