製薬企業所属の医師だからこそできる患者さんへの貢献のありかた―製薬企業の社員(non-MD)からの視点①-4
その四:企業内医師の重要性
まずは、社内医師がいない状況での苦労話から始めます。私の経験上、社内医師がいない場合、医師以外の人間がどれだけ文献や本を読んで知識をつけても、医療現場を知らず、かつ「学位」もない人からの意見発信は、海外の同僚に受け入れてもらうまでに多大な時間と労力を要します。結局通じないことも多々あります。昔私がまだまだ駆け出しの開発マンだったころ、海外での医薬品開発に携わった際、大変苦労した時期がありました。自身の担当プロジェクトに関してはかなり勉強に時間を費やし、担当化合物の作用メカニズム、基礎データや関連する科学的情報の知識は誰にも負けない自信をつけて討議に臨むのですが、「結局日本の外部専門家(=医師)はどう言っているのだ?」などと言われ、私の意見などどこへやら、という場面に多数遭遇しました。その度に私は、「欧米人は中身をよく見もしないで肩書だけで意見の是非を判断するのだ」と大変浅はかな解釈をし、苦労しているのは周りの不理解が悪いのだ、と不貞腐れていたのでした。しかし、経験を積むにつれ、結局欧米の方々は情報・意見の中身のみならずその発信者の経験や知識レベルをむしろ客観的かつ迅速に判断するためにこそ、発信者の学位がむしろ重要な判断材料であり、学位に裏打ちされた人間の意見を優先的に聞くことで信頼性の低い情報が混ざる確率を効果的に下げているのだ、と理解できるようになりました。決して浅はかな学位信仰ではなく、かつ医師でない私のような人間の人格を否定しているわけでもなかったのです。それが分かって以降は私の考え方ががらりと変わり、医薬品開発を最速で進めるためには医師に協力を仰ぐことで質もスピードも得るという手法に転換した結果、私の関わる業務の質はずいぶんと高まったように感じました。