製薬企業所属の医師だからこそできる患者さんへの貢献のありかた―製薬企業の社員(non-MD)からの視点①-3
その三:日本における企業内医師(MD)の在り方は発展途上
まずは企業側の方から考えてみたいと思います。日本の製薬業界では、医師は顧客であるという思考が長年にわたって強くしみ込んだ結果、社内医師がいらっしゃってもその意見が医師以外の社員の視点と相反するものになった場合、意見をすり合わせることが難しいという心理的バリアがあるかもしれません。医師でない人間が意見を言っても聞いてもらえないのではないか、医学以外の視点(営利団体である企業という性質上医学・科学という観点だけでの意思決定は難しい)をご理解いただけないのではないか、医師ではない他の社員が委縮してしまうのではないか、などという懸念が先だって積極活用に至れない、そういう一面があるかもしれません。
一方そういう風土の企業で社内医師として働かれる場合は、いったいどういう働き方になるのでしょうか。企業に入社してもなんとなく顧客として扱われている感があり、自分自身の言葉の影響力の強さも理解しているので、使命感から自身の意見をはっきりと強めに伝えることを心掛ける。ぶれないように「正しい」意見を発信するよう気を付ける。その結果、大体は意見を聞いてくれるのだが、みんな賛成しているのか反論ができないのかよく分からない。その割には時にびっくりするような形で意見をひっくり返されたり、却下されたりする。話し合いをしても納得のいく論理展開には至らず、会社決定ですから、という理由で物事は進み、ご自身の存在意義が感じられなくなってしまう。こうした事例を経験された方もいらっしゃるのではないでしょうか。また、企業で働かれたことの無い医師の方々は、企業勤務経験のある医師から上に書いたような事例を聞いたりすることもあるかもしれません。そして本当に企業がそのような場所なのであれば、自分のキャリアを積むメリットは少ない、と思われることでしょう。少なくとも私の個人的感覚では、未だ日本では企業での勤務を検討される医師の数そのものが少ないように思いますが、ひょっとすると企業で勤務されることにネガティブなイメージを持たれているからではないか、と推測します。しかし、「決してそうではないんだけどな。残念だな。とても大きなOpportunityがあるのだけど」と私は思うのです。
どうしたら日本でも社内医師がもっと活躍出来て、企業にとっても社内医師にとってもWIN-WINの状況が生まれるのでしょうか。私自身の経験をもう少しお伝えしつつお話を進めたいと思います。