【インタビュー】在米女性医師Mさん

インタビュアー

このインタビューシリーズもだいぶいろいろなケースを取り上げることができてきました。しかし、アメリカでそのまま製薬会社に就職したケースを取り上げてほしいとのリクエストが出てきましたので、Mさんに是非お願いすることになりました。

在米女性医師
Mさん

私はポスドクでアメリカに来て、そのあとポスドクが終了したのち研究者として身を立てたいと思い、スタッフサイエンティストを経てリサーチアシスタントプロフェッサーとなることができました。しかし世界中から研究者が集まってきているアメリカですからその土俵が大変競争の厳しいものだというのが身に沁みました。

インタビュアー

例えばどういう事がありましたか?

在米女性医師
Mさん

NIHのグラントでR21という短期のグラントはとることができましたが、その次のR01を取るのがハードルが高かったです。R21を取って2年間でもっと大きいグラントを取らなければいけないのですが、R01はその応募をするためのベースになるデータがたくさん要求されるので、そのデータがなかなかうまく出ませんでした。

インタビュアー

私はグリーンカードがないとNIHグラントには応募できないと聞いていましたが。

在米女性医師
Mさん

はい。しかしK99というグラントではグリーンカードがなくても応募できることを後から知りました。この辺は、その時々で変わるかもしれませんので、皆さんしっかり調べてもらわなければいけませんけど。私はグリーンカードのない間はボスがとってきたグラントでしっかり研究をすることができていました。ポスドクだったけれど、給料は出してもらえて、福利厚生もしっかりしていて、夫婦二人でやっていけました。でも今思えば、研究者としてやっていくためにはその時期からどんどんいろいろなグラントに応募していく必要があったのだと思います。

インタビュアー

ボスがグラントゲッターのラボにいて将来独立して研究者としてやっていこうという方には大変重要なアドバイスですね。グリーンカードは取れてNIHグラントに応募することができるようになってもR01に持っていくのが難しかったのですね。

在米女性医師
Mさん

そうですね。毎日これだけ頑張っても研究者として成功していくのはなんと難しいことかと思い知りました。子供もできて生活も大変になってきました。デイケアに預けるのに夫が送りに行って、私が迎えに行くなど分担をしていましたが、費用がとても高く一か月2000ドルぐらいかかるときもありました。

インタビュアー

日本に帰ることは考えられなかったのですか?

在米女性医師
Mさん

ポスドクをしているときに、やはりヨーロッパから来ていてポスドクだった夫と結婚し、子供ができました。日本という異なる文化になじめるかどうかわからないし、無理やり連れて帰るわけにもいかないと悩んでいました。そこでDDCPを立ち上げた中鉢さんと学会で出会って、企業で働く医師について話を聞くことができたのです。

インタビュアー

そうでしたか。どういう風に感じられましたか?

在米女性医師
Mさん

今まで視野に入れたことのないキャリアオプションだったのですが、医薬品の開発特にクリニカルディベロップメントに興味を持ち、そしてかつそのオプションなら生活も成り立つようにできそうだと感じました。

インタビュアー

そこで製薬企業で働こうと考えてアクションを取られたのですね。

在米女性医師
Mさん

そうです。20社ぐらい応募して、2社からインタビューを受けることができました。クリニカルディベロップメントに行きたかったのですが、オファーはメディカルアフェアーズでした。しかしとにかく企業にまずはいるという事がキャリアのために大切と考えて、企業に入りました。入ってから、メディカルアフェアーズからクリニカルディベロップメントに移ることもできると考えたからです。

インタビュアー

メディカルアフェアーズでの仕事はどのようでしたか?

在米女性医師
Mさん

とても面白かったです。研究もチームで行いますが、企業ではもっと大きなチームの一員として働くことになります。そこで成功した時にはチームで喜びを分かち合うことができ、それが大きな喜びでもありました。それにいろいろな学会に出張に行くことができました。普通ならとてもいけないようなハワイでの学会とかもありました。ただ、最初はその会社特有の略語が多くて何を言っているのかわからないときがありました。自分で略語辞書のようなものを作って会話についていけるように頑張りました。今の会社では会社のウェブサイトに略語辞典を作ってくれています。

インタビュアー

そしてクリニカルディベロップメントに移ることになったのですか?

在米女性医師
Mさん

1年半メディカルアフェアーズにいて面白かったのですが、早くクリニカルディベロップメントに移りたいと考えていました。前の会社の中ではそういうチャンスがすぐになさそうでしたので、今の会社に転職することになりました。

インタビュアー

クリニカルディベロップメントでの仕事はどうでしょうか?

在米女性医師
Mさん

研究で培った自分の経験を生かすことができると感じています。メディカルアフェアーズの仕事は昔の医者としての経験をよみがえらせてやっていたような感じでした。疾患にかかわるメカニズムを研究してきた経験があるので、クリニカルディベロップメントではどんどん学びが進んでいる感じです。それとクリニカルディベロップメントではいろいろな部署との協業が多いように感じます。ステークホルダーとなるファンクションが多くて、合意形成が大変でもあり、面白くもあります。機密性、秘匿性の高いことをしていて、その分野のキーオピニオンリーダーの先生方とfundamentalな部分での医者同士Peer to Peerのディスカッションをすることができます。

インタビュアー

臨床医としての知識以外に新しく学ぶことがたくさんあるのがクリニカルディベロップメントですね。今最も困難だと思うことは何でしょう?

在米女性医師
Mさん

治験をしてデータを出すわけですから、思い通りににいかないことがありますよね。今回のCOVID-19 では一部の国で患者さんのリクルートメントが大幅に遅れました。それに対処しなければなりませんが、患者さんの安全を最優先しながら、レギュラトリー、コンプライアンス上許される融通性の中でリスクアセスメント、リスク回避をする能力が試されると思いました。

インタビュアー

今後はどのようなことに取り組んでいきたいですか?

在米女性医師
Mさん

クリニカルディレクターとしてプロジェクトに貢献し、既存の標準治療よりさらに優れた新薬を開発し、1日でも早く患者さんに届けたいです。現在の所属部署にはクリニカルディレクター(医師)がたくさんいて、各適応症ごとに医師が割り当てられています。今のポジションで求められることをしっかりこなせるようになって、チームリーダーができるようになればいいなあと思っています。そのためにはもっと力を蓄えなければと考えています。周りには本当に優秀な医師が多いのでチームリーダーになるのはなかなか狭き門です。でも、アカデミックな会話がしやすいいい環境です。

インタビュアー

それでは、今アカデミアで研究者をしている日本人医師の方で、アメリカに残って製薬企業にやっていきたいという方に一言アドバイスを。

在米女性医師
Mさん

アメリカにいてグリーンカードがあれば臆せずにどんどん応募することです。とにかく最初に企業に入るところが一番ハードルが高いです。一度企業に入れば、一年ぐらいたつとリクルーターさんからもどんどん話をもって来てくれます。自分の本当にやりたい疾患領域や、部門などに移れる可能性が開けてきます。それからネゴシエーションスキルを高めていくように努力することが大事ですね。アメリカではお給料やボーナスもネゴシエーションをしていかなければいけません。