【インタビュー】原田明久さん

ファイザー日本法人社長

インタビュアー

製薬企業に入ろうと思ったきっかけを教えてください

原田明久さん

イギリスに1990年頃に留学をしました。やはり日本から外に出て目が開けることがあるものです。大学と企業の協業を目にしたことが大きなきっかけです。1999年にファイザーに入社しました。

インタビュアー

製薬企業に入っての印象を聞かせてください。例えば医療の組織と企業の組織の違いとか。いかがですか?

原田明久さん

医師として、医学研究者として働いていた大学というところはなんてシンプルな社会構造だろうと感じました。

インタビュアー

それはどういう事でしょうか?

原田明久さん

少なくとも当時の医療の現場や大学での研究はすべて医者ありきの縦社会でした。一緒に働いている医者以外の人たちはいますが、その人たちは医者の指示に従って行動します。それに対して、製薬企業における開発は一人一人の力を引き出すチームワークで機能しています。チームのゴールというものを共有してそれを達成するのです。

インタビュアー

大学などの医学研究者の方々からは企業では制限された活動しかできないという声をよく聞きますが?

原田明久さん

大学での研究活動は個人プレーヤーとしてどれだけ優れているかに左右されます。しかし、企業ではチームの組織としての力でより高いゴールを目指せると思います。そういった組織の力を通しての達成感というのが企業にいて面白いと感じることですね。それが私がずっと企業にいて仕事をやってきた理由だと思います。

インタビュアー

原田さんは開発部門にまず入られましたが、開発の面白みについてお話しいただけますか?

原田明久さん

こちらのガラス細工を見てください。

開発はこの多面体のガラス細工のようなものなんです。とても作るのは難しい。どういうことかというと、それぞれの面がデータなんですよ。そしてその集大成が承認申請して製品となることです。このそれぞれの面をなすデータを作り出すのはチームなんです。一人一人の責任の下にデータを積み上げてチームの成果として製品を作り出す。このチームワークがとても他では味わえない面白みがあると思います。

インタビュアー

なるほど。その多面体ガラス細工に医師はどのようにかかわることができますか?

原田明久さん

医薬品開発においては、この多面体のガラス細工をつくるためチームをまとめるリーダーシップを医師は発揮できると思います。先ほどはこの一つ一つの面が、データであると話しました。しかし“チーム”という観点で見ると、この一つ一つの面は、それぞれの分野で専門性を持ったチームメンバーなんです。そのチームメンバー一人一人が十分力を発揮できないとこのデータとしての面は出来ず、ガラス細工がガチャガチャと壊れてしまう。これをそうならないよう大所高所から全体を見てリーダーシップを持ってチーム全員を引っ張っていく、それが医師に求められるリーダーシップと思います。

インタビュアー

医師にはリーダーシップが求められているのですね。

原田明久さん

医師は、特異な教育を受け、他の人たちが経験していないことを経験しています。したがって大きな見地から全体を見渡して行き、他の人を引っ張っていくことができれば、社会のいろいろなところで活躍することができると思います。

インタビュアー

幅広い分野での医師の活躍ですね。

原田明久さん

我々は、“医師”と言うだけで社会に貢献できる人材としての可能性を狭めてしまっていることもあると思うのでこれからの若いMDの方々には既成の概念にはとらわれず社会で大いに活躍してもらいたいと思います。

インタビュアー

企業開発医師として学んだことで、特に強調したいことはありますか?

原田明久さん

リーダシップ、マネージメントはファイザーが教えてくれました。大学に残っていたのでは決して得られなかったでしょうね。そしてチームワーク、横に広がる社会。特にチームワークの素晴らしさですね。

インタビュアー

今は社長業をしておられますよね。どういったきっかけで、社長という役割を受け止めておられますか?

原田明久さん

私が開発部門にいたときもチームがあって初めてゴールに到達できたと思っています。現在はビジネスの責任者ですが、最も大事なことは、ビジネスもはやりチームワークでゴールを達成するものだ、という事です。したがって、そこに大きな違いはない。つまり我々の組織というのは、単に人の集まり、ではなく物事を達成するためにビジョンやミッションを共有した大きなチームとであると言えるのです。そのチームをうまくまとめられるかどうか、そういうことを認めてもらったので今の私があると思っています。

インタビュアー

やはりチームワークなんですね。社長というのはやっぱり利益、損失の責任が重大ですよね。

原田明久さん

そうです。しかし、それは2番目だと最近のコロナのパンデミックでより強く思うようになりました。一番は社員がいかに力を発揮できる会社であるか、ということです。それが最も重要です。特にいまのようなパンデミックの状態にあっては、社員とその家族の健康が第一です。そのあとにP&Lの責任が来ると考えています。

インタビュアー

日本とグローバルの位置づけで感じることはありますか?例えばコミュニケーションのギャップであるとか。

原田明久さん

日本とグローバル、ここでは米国本社としましょう、そこでは社会も違うし習慣もことなり、黙っていては互いの理解に齟齬が起こるのは当たり前です。
そのためにコミュニケーションをしっかりとるという事を心がけています。そうすればカルチャーが違うから、受け入れられないということは少なくなり、どうすれば日本の社会に根付かせることができるのかという事を考えるようになります。まさに我々の存在はそういうところなんです。なんでもストレートに外国のものを持ってくればいい、ということではなく、どう解釈してもらってどう運用していくかということを考えて日本の社会の半歩先の提案をしていく、それによって社会全体の進歩を促し、我々の仕事も達成できると思います。それをするのが我々の役割りなのです。

インタビュアー

それでは、若い医師の方に一言お願いします。

原田明久さん

先ほど言ったように、医師となるには特異な経験を積んでいます。その経験を社会のいろいろなところで幅広く役立ててほしい。医薬品開発もそういった場の一つです。最近ではIT企業を興す起業家として医師が出てきています。疫学の観点から政策にもかかわっていくのもいい。視野を広く持って外に出てキャリアを生かす場を広げていってほしいですね。皆さんはクリック一つで世界と繋がる世の中に生きています。それは私が育った環境とは全く異なり、多様な考え方や、アイデアを取り込んで世界に自分の考えを問う事ができる世の中です。かつてないほどワクワクする時代であり、その真っ只中に生きているのです。皆さん一人ひとりが自分の好きな事、自分が大切にしていることを続け、自分自身の “地下の鉱脈”を掘り当て世界に羽ばたいていってもらいたいと思います。今の時代、可能性は無限大です。私は将来、皆さんの活躍を見て“後世畏るべし”と思いたいと願っています。