【インタビュー】在米女性医師Nさん

臨床医から企業内医師へ

インタビュアー

初めて企業に入った時はどんな感じでしたか?

在米女性医師
Nさん

医師、研究者から突然企業に入る戸惑いは誰にでもあると思います。周囲がどう思うか、社内 の人達はどう思ってるのか。特に私は家族のほとんどが臨床医であった事や、マスコミではあま り製薬企業を良く思っていなかったり。自分が戸惑っているだけでなく、家族や周りの人を戸惑わせることもあったように思います。企業の仕組みをよく理解してないいい年をした医者が突然新 入社員で右も左も分からなく入り、なおかつ高収入をもらってる事実を知っている他の社員はどう 思ってるのか。戸惑うところはたくさんありました。

インタビュアー

なるほど。たくさん戸惑うことがあったのですね。

在米女性医師
Nさん

はい。しかし医師として製薬業で働く一番の 強みは臨床経験です。患者さんの治療に直接携わった経験、患者さんと実際話したことのある 経験。医学的知識でリーダーシップを企業内で発揮し、かつチームの一員として多いに貢献で きる職場だということに気づきました。

インタビュアー

チームの一員、リーダーシップというのは製薬企業では重要な資質ですよね。

在米女性医師
Nさん

製薬企業の奥深さは経験するまでわかりませんでした。臨床医だと薬の説明会や講演、MRとの会話、さらっとしか目を通さない薬の添付文書ぐらいの接点しかなかったような気がします。私は日本で外資系製企業に入社しました。入った部署は安全性。もちろん薬の有効性は大事ですが、同じように安全性も重要です。製薬企業がどのように薬の安全性を保つのか、治験プロトコールにどのように組み込むのか、治験時及市場でどのような情報を収集するのか、どのような報告を当局にするのか。もちろん添付文書作成に関わる事細かな情報、当局との面談、社 内での他の部署との交流等色々と経験することができました。薬による副作用なのか、病気の症状なのか、これらを区別するには医学的知識は必須です。

インタビュアー

アメリカで医薬品開発を目指した経緯について教えてください。

在米女性医師
Nさん

私は日本でインタナショナルスクール、アメリカで大学を終え、日本の医学部に学士入学しました。またアメリカでのポスドクの経験もあったので、語学や海外での生活には抵抗はありませんでした。日本で外資系の製薬企業で働き始め一年弱の頃、アメリカ本社で働く機会が浮上し、とても良いチャンスだと思いました。

インタビュアー

はじめに日本で企業生活を始めてそれからアメリカに戻る機会があったのですね?

在米女性医師
Nさん

はい。思い返してみると、日本でも外資系の会社だけあって、上司はアメリカの体制になるべく近い環境を作ってくれていたと思います。

インタビュアー

少し例を挙げて話していただけますか?

在米女性医師
Nさん

同じ会社でもカルチャーは日本とアメリカで大いに違います。主にワークライフバランスが違いまし た。アメリカでは朝が早く、会社を早い時間に退社します。日本では朝が遅く、夜も遅 い生活でした。アメリカではWork From Homeが普通の会社も多いところ、日本ではここ数年そのような体制がとれるようになってきたばかりです。

インタビュアー

アメリカに行ってされた仕事について教えてください

在米女性医師
Nさん

アメリカ本社では臨床開発に携わりました。グローバル開発チームの一員として働く事ができまし た。アメリカだけではなく、日本も含む世界各国で治験を実施し、協調しながら治験を前進させてい く重要かつやりがいのある仕事です。日本で働いていた経験はとても貴重で、グローバルチームでは重宝されま した。なぜなら、日本は医薬品市場として世界の中でも大きく戦略上重要な国なので、日本の制度、ニーズ、医療事情の理解があることは、グローバル医薬品開発に大きなプラスとなる要因だからです。

インタビュアー

アメリカでの臨床開発ではどのような経験をされましたか?

在米女性医師
Nさん

グローバル第3相試験です。ここでも医学的知識が必要とされます。プロトコールの作成、有効性を見るにはどのような臨床評価が必要なのか、安全性確保にはどのような評価が必要なのか、どのような要素が各当局から求められてるのか。なるべく患者さんに負担のないプロトコールを作成する必要があったり、どのように治験医師や治験施設に協力を得てもらうか考えることも重要な仕事です。データの解析だけではなく、データの解釈等にも携わります。

インタビュアー

今はアメリカでどのような仕事をされているのですか?

在米女性医師
Nさん

現在私はメディカルアフェアーズの部署にいます。既に市場に出てるお薬担当ですが、どのように正しく臨床結果が配信されるか、どのようにマーケティング部署をサポートするか等医学的知識はこの部署でも欠かせません。主に文献制作、各分野の key opinion leadersとの対話、プロモーションが医学的に正しいかのチェック。これに加えて、グローバルチームにいるため、 各国のメディカルの同僚が使うスライドやトレーニングもします。

インタビュアー

多くの経験をされているのですね。今後どのような経験を積まれたいですか?

在米女性医師
Nさん

私は今まで3つの部署を渡り歩きましたが、製薬企業では様々な部署で医者のニーズがあります。それこそ、マーケティングをしてる医師もいれば、研究に携わってる医師もいます。私の今後チャレ ンジしたい部署はcorporate affairsです。色々な国の医療事情を知ることができ、どのように製薬企業がpolicy makingに関与でき、どのようにその国の医療制度に携われるかという興味深い分野だと思います。製薬企業は臨床家として働く以上に幅広い経験ができるチャレンジングでエキサイティングな場だと思います。

インタビュアー

ありがとうございました。