【インタビュー】芹生卓さん

インタビュアー

まず製薬会社に入られたきっかけについて教えてください。

芹生卓さん

大学院で白血病の研究をしていましたが、ボスの推薦を受けてドイツに留学することになり、そこで白血病の臨床研究をすることとなりました。

インタビュアー

基礎研究ではなく、臨床研究でドイツに留学されたのですね。どのような臨床研究をされたのか詳しく教えてください。

芹生卓さん

ヨーロッパの医師主導型多施設共同試験でした。白血病について治療法の違いによってどれくらい予後が変わるかデータを出してエビデンスを積み上げるというものです。

インタビュアー

1990年代の医師主導試験ですね。どういった規模の試験だったのですか?

芹生卓さん

ヨーロッパ中のほぼ主要な大学が全部参加するような臨床試験でした。そこでその当時の分子生物学的診断として注目を浴びだした微小残存病変を調べ、予後と関連付けようとするものでした。

インタビュアー

すごいですね。それから日本に戻られたのですか?

芹生卓さん

こういった研究をドイツで経験して日本に帰り、同じようなことを日本でしようとしてもそういう枠組みがありませんでした。製薬企業では新薬を出すにあたって大規模な治験をすることから、自分のやってきたことをそのまま生かせると考えて企業に就職しました。大学も暖かく送り出してくれました。

インタビュアー

日本でも最近になってがんセンターを中心とした大規模試験などが広まってきましたが、その当時はまだ大学とその関連病院だけの小さな臨床試験でしたね。企業に入ってからは仕事や役割の点で何か違和感を感じるようなことはありませんでしたか?

芹生卓さん

大学でも留学中でも、臨床研究の中で治験のデザインを考え、結果をまとめるようなことをしていましたので特に違和感はありませんでした。ただ、いろいろな部署と協力して申請資料を作り、当局と交渉して承認をもらうというプロセスが新鮮でした。

インタビュアー

大学ではペーパーを書いてそれで業績になりますが、申請は大変な労力、チームワークですね。

芹生卓さん

承認されたらそれで終わりというものでもありません。市販後にどのように安全性を担保していくのかということも当局と討議しながら承認をもらわなければいけません。添付文書や市販後使用成績調査といったものですね。

インタビュアー

先生は開発部門から入られて今まで多くの部署を経験してこられていますね。

芹生卓さん

二つ目の会社でアメリカで働くことになりましたが、その当時まだ日本には普及していなかったメディカルアフェアーズを経験することができました。日本に帰ってきて日本でメディカルアフェアーズを立ち上げるという役割を担うことになりました。そしてファーマコビジュランスも担当しました。

インタビュアー

グローバルとの組織上のアライメントを通して業務の効率化を進めるということですね。組織の立ち上げを指揮されたということで、ますますビジネスの面でのリーダーシップスキルと戦略、戦術スキルを向上されたということになるのでしょうか。

芹生卓さん

大塚製薬に移るときには薬事、信頼性保証、ファーマコビジュランスの立ち上げをグローバルレベルですることになりました。そして開発、メディカルアフェアーズの責任者も兼ねることとなりました。

インタビュアー

組織の責任者として立ち上げを指揮してこられたということは、ピープルマネージメントもお好きなのですか?

芹生卓さん

そうですね。それが会社でうまくやっていけるかどうかのポイントのように思います。会社ではチームで働きますが、基礎医学、臨床では基本的に自分が一人でやっていくことが多いと思います。そのギャップの大きさについていけない医師の方は企業で働くことに向いていないでしょうね。

インタビュアー

先生はチームワークのスキル、リーダシップのスキルはどこで伸ばされたと思いますか?

芹生卓さん

留学中のハイデルベルク大学では、大規模臨床試験の事務局を担当していました。そこもチームで動いており、運営のノウハウを体得できたのだと思います。

インタビュアー

クリニカルオペレーションですね。

芹生卓さん

そこでは小さい組織でしたが、製薬企業に来てどんどん大きな組織、チームを運営するようになりました。プロジェクトリーダーとしてチームを率いて成果を出すというやりがいを感じます。

インタビュアー

先生は外資系と内資系の両方を経験されていますが、医師の役割についてなにか違いはありますか?

芹生卓さん

グローバルではMDのJob Descriptionがあり、その役割がはっきりしています。外資系ではグローバルとの統合性が取れていないと効率が悪いという考えに基づき、かなり役割がはっきりしてきていますが、日本の会社においてはそれが十分行われていません。それは日本独特のルールで長い間動いてきたことも関連していると思います。しかし、逆に医師の役割の枠組みが明確でないところに医師が活躍する可能性もあると思います。

インタビュアー

面白い視点ですね。はっきり枠組みがしていないので、フレキシブルに対応できる医師には可能性が広がっているということですね。それでは若い医師の方に一言。

芹生卓さん

まだ製薬企業で働いたことのない医師の方には見えていないと思いますが、医師の貢献できる分野というのは果てしない可能性が広がっているのです。グローバルチームのリーダーというのは、いろいろな国にある子会社、CROを中心とした様々なベンダー、多くの治験責任医師や治験コーディネーターを直接的、間接的にマネージしているのです。目に見えるのは100人ぐらいのチームの顔かもしれませんが、それをはるかに超える人数のメンバーからなるチームが存在しています。もし他の会社との共同開発を指揮することになればもっと大きく広がります。そして市販後になるともっと大きなチームになり、薬の適正使用のために戦略を立ててその巨大なチームを指揮します。そういったチームをリーダーとして率いていくことで、新薬を世に出し、適正使用を推進し、新しいエビデンスを創出して医療の進歩に貢献することに大きな魅力を感じる方には大変やりがいのある職場ではないでしょうか?

インタビュアー

そうですね。最近ではPatient Centric Clinical Trialという考え方も出てきて、患者さんもサイエンスに貢献するチームの一員として考えていくこともできそうです。今日はありがとうございました。