MAの歩き方(その3)
「バリューについて」
バリューを直訳すると「価値」という意味ですが、通常企業内では、組織に所属するメンバーが目標実現に向けて持つべき価値観、行動基準という意味合いで使用されます。
ちなみに製薬企業でバリューと言うと「医薬品がもたらす価値」という意味合いで、適正な薬価は何かという意味で語られる場合もあります。余談になりますが薬価の議論においては「製造コスト+適正な利益」という考え方と「薬がもたらす価値(延命で会ったり、QOL改善で会ったり)をお金に換算」という二つの考えがあります。
ビジネスの世界で最も有名な「バリュー」は、おそらくジョンソン・エンド・ジョンソンの「クレド(我が信条)」ではないでしょうか。様々なビジネス雑誌や経営学の教科書にも取り上げられ、社内への徹底的な浸透も良く知られています。
このクレドは顧客、社員、地域社会、そして、株主という四つのステークホルダー(利害関係者)に対する責任を具体的に明示したもので、社員に対する責任が株主よりも前に来ている事が評価される事が多いです。これはジョンソン・エンド・ジョンソンの顧客中心の価値観を反映しており、製品を使ってくださる顧客を中心において、顧客に近いステークホルダーの順で責任を列挙した形になっています。
このクレドが最も有効に機能したのは、1982年に起きた「タイレノール事件」です。タイレノールはOTCのアセトアミノフェンで、アメリカで暮らした人にとってはどこのドラッグストアにでもある定番商品です。このタイレノールに誰かが青酸化合物を出荷後に混入して、数人の死亡者が出たというのが事件の概要です。
この事件で、ジョンソン・エンド・ジョンソンは「タイレノールに青酸化合物混入の疑いがある」とされた時点で、膨大なテレビ放映、専用フリーダイヤルの設置、新聞の一面広告などの手段で回収と注意を呼びかけ、さらにタイレノール全製品を一度市場から回収して、毒物の混入を防ぐため「3重シールパッケージ」を開発し発売したそうです。
この徹底的な施策によって、事件発生から二か月後にはタイレノールの出荷が事件前の8割まで回復し、危機管理のお手本としてビジネススクールのケースになっています。当時の社内にはこのような毒物混入に対するマニュアルはなく、全製品回収については取締役会で異論が噴出したそうですが、最終的にはCEOが押し切ったとも言われています。難しい判断を行う時こそ、理念・価値観が重要であることを示したベストケースではないでしょうか。
どこの会社にも「バリュー」に準じた枠組みがありますが、まずは皆さんの会社の「バリュー」を確認し、社内にどれだけ浸透しているのかを観察してみては如何でしょうか。「バリュー」を作ったものの、それほど社内浸透に努力しておらず、お題目になっている会社もあります。でも全社的なバリューはCEOレベルの価値観を反映している事が殆どですので、結局は会社の価値観・行動基準を学ぶ事になります。またこのバリューはビジョンと同様に、各部署で作ることもしばしばです。もし皆さんが所属している部署でバリュー作成の機会があったら是非参加してみてください。次回は「組織の7S」特に「戦略」についてお話しします。
(続く)