【インタビュー】山口裕史さん

インタビュアー

まず、製薬会社に興味を持った経緯をお聞かせください。

山口裕史さん

形成外科、整形外科の研修医の後に皮膚科医となり、2度目の米国留学を終えて日本に戻ってきた頃、大学病院勤務で治験を通じて新薬の開発に参加したことが一番大きかったと思います。当時は難治の疾患であった乾癬が生物学的製剤で治癒に至った症例を経験し衝撃を受けました。さらに悪性黒色腫の新薬がたくさん上市され、基礎研究が治療に繋がる可能性を身近で感じました。

インタビュアー

皮膚科の治療がダイナミックに変わってきた時期ですね。

山口裕史さん

NIHでの成功体験が忘れられなかったのもありますが、米国本社で3年以内に自分の専門領域の研究(Translational Research)に専念するために、アボットジャパン(現アッヴィ合同会社)に入社しました。

インタビュアー

まず、日本で製薬会社のキャリアに足を踏み入れられたのですね。企業とアカデミアの違いに愕然とされましたか?

山口裕史さん

入社当初から米国本社勤務するための通過点と考えていたので、企業とアカデミアの違いなどは意識せず仕事に没頭しました。日本支社では業務が多岐に渡り、どうすれば会社に貢献できるか(自分に何を求められているか)を第一に考えて仕事をしました。またできるだけ多くの新しいことを学ぼうとしました。チームワーク、リーダーシップ、ファイナンスの研修は大学勤務の際には経験できない学びが多くありました。

インタビュアー

ある程度大手の製薬会社ではそのような研修は本当に充実していますね。それでは医師としてどのような業務をされましたか?

山口裕史さん

製薬会社によって部署の名前は違いますが、Discovery、Clinical Development、Pharmacovigilance、Medical Affairsの部署は、アカデミアを長く経験した医師が活躍できる部署かもしれません。私の主な業務はMedical Affairsでしたが、企業の業務に慣れるためには、自分にとっては最適の部署だと感じました。入社3年目で3度目の渡米をすることができました。

インタビュアー

二度の米国研究留学ののち製薬会社に就職、その後アメリカへと一歩一歩確実に希望をかなえてこられたのですね。

山口裕史さん

最初に述べたように、企業に転職した目標は、専門領域でのTranslational Researchでしたが、当初はMedical Affairsでの勤務でした。社内交渉の末、1年以内でローカルハイヤーとしてDiscoveryに異動し、念願の皮膚科領域での基礎研究の立ち上げや各種Translational Researchをできるようになりました。自分の経験では、企業での基礎研究とアカデミアでの基礎研究は特に大きな違いは感じませんでしたが、化学、毒性学、臨床薬理学分野のエキスパートとの企業内での共同研究は、どのように薬の候補を絞り込んでいくか学べ有意義でした。

インタビュアー

アメリカでさらにステップアップを目指され、開発に入ったのですね。

山口裕史さん

1つの目標を達成し満足していたのですが、企業で働く医師が最も多く携わっている臨床開発(Clinical Development)の経験が浅く、たくさんの皮膚科領域の治験をしている別の製薬企業に興味を持ち初め、DDCP創立者の中鉢さんのお誘いをお受けして、GSKに転職しました。GSKでの皮膚科領域の臨床開発は、Dermatology Unitとして、(Discoveryのコンサルタントから)Phase 1 から4の全てに関わることができ、FDAやEMAとのやり取りも有意義でした。社内の全薬剤を対象に免疫関連の有害事象が動物実験や治験で出た際のリビュー(Safety Board Panel)、免疫領域全般の薬剤や事業開発分野の候補となっている薬剤のリビュー(Due Diligence)もできる立場になり、いろいろな領域の見識を深めることもできました。

インタビュアー

がむしゃらに仕事をされていたような印象です。順調でしたか?

山口裕史さん

ところがGSKの社内再編でDermatology Unitが閉鎖となり、いろいろ考慮の末、近年皮膚科領域でたくさんの治験をしているPfizerに転職しました。

インタビュアー

アメリカはダイナミックに雇用環境が変化しますからね。それでは今なさってることを教えてください。

山口裕史さん

国際共同治験の総責任者として、プロトコールを作成し、治験の説明会を米国やヨーロッパで開き、FDAやEMAとやりとりをし、治験の進行状況を管理し、有害事象に対応し、治験報告書をまとめていくのが今の主な仕事です。Key Opinion Leaderとされる医師たちとの関係は対等で、メール、電話、ウェブ、対面で気軽に相談に応じてくれます。NIHの仕事や国際誌のセクションエディターを通じての旧知の医師が多いのも理由にあるかもしれません。責任のある立場なので、いい加減な仕事はできません。また皮膚科領域以外も知識を深め、どんな臨床開発も統括できるように日々研鑽しています。特にここ数か月は、COVID-19の対応で忙しい毎日です。医療現場で実際にCOVID-19の患者さんの対応をされている方々には頭の下がる思いです。

インタビュアー

ますますのご活躍、素晴らしいですね。それでは若手医師に一言お願いします。

山口裕史さん

医師の将来の選択肢として、教授などのアカデミアの医師、基幹病院の部長を含めた勤務医、開業医がほとんどかもしれませんが、製薬会社やPMDAでの勤務を考慮しても面白いと思います。新薬の開発を通じて治らないと思って諦めていた病気も治せるようになり、それに貢献できればやりがいも感じられると思いますよ。

インタビュアー

何か普通と違う事を大胆に経験してもらいたいですね。ありがとうございました。