MAの歩き方(その1)
皆さん、DDCPのMDコミュニティにようこそ!DDCP理事の玉田です。DDCPが昨年行った、製薬企業入職5年以内の医師を対象にしたアンケート調査1)では、製薬MDの多くが入職に際して、組織的な事柄(組織構造、業務プロセス、意思決定プロセス、評価制度など)を理解・適応していく事に戸惑いがあることが示されました。この記事では企業という組織に対する製薬MDの理解を助けるため、企業の成り立ちについて解説します。
(1)企業の設立趣旨・事業内容
大体どの企業も定款というものがあり、設立の趣旨と事業内容が規定されています。企業が何を目指してビジネスを営んでいるかどうかは、例えば米国であれば企業が当局(米証券取引委員会)に毎年提出するForm10Kと呼ばれる年次報告書を見ると明確にわかります。例えば最近COVID19ワクチンで益々存在感が高まっている、Pfizerの2020年度のForm10Kを見ると、以下の様な記載があります。
Pfizer Inc. is a research-based, global biopharmaceutical company. We apply science and our global resources to bring therapies to people that extend and significantly improve their lives through the discovery, development, manufacture, marketing, sales and distribution of biopharmaceutical products worldwide. We work across developed and emerging markets to advance wellness, prevention, treatments and cures that challenge the most feared diseases of our time. We collaborate with healthcare providers, governments and local communities to support and expand access to reliable, affordable healthcare around the world.
Pfizerは研究開発型の製薬企業であり、先進国・新興国を相手に世界中でビジネスしてますよ、という事が見えてきます。ちなみに、このForm10Kはかなり優れた情報が含まれています。現在進行中の開発プログラムの状況はどうか、これからどの分野に注力するのか、会社の財務状況はどうか、などの貴重な情報が含まれています。もしある会社に興味がある場合は、その会社のForm10Kを読んでおく事がお勧めです。財務用語が多いので読みにくいかもしれませんが、その際は https://lnkd.in/dFYtNtQR などを使うと驚くほど正確に和訳できます。日本でForm10Kを読んでいる製薬MDはまず居ませんが、他人と異なったインプットがあると差別化されたアウトプットに繋がるのでお勧めです。競合の開発戦略について理解する時も役に立ちます。
(2)企業の存在意義
上記Form10Kに書いてある内容は結構固めな書きぶりなのですが、企業のウエブサイトを見ると、その存在意義がより分かりやすく記載されています。企業が存在意義を語る時にはPurpose、MissionあるいはVisionなど、様々なタイトルをつけて表現しますが、大体どの企業も「自分たちの存在意義」について明示的に記載します。以下に例を挙げます。
Pfizer: Our Purpose: We’re in relentless pursuit of breakthroughs that change patients’ lives. We innovate every day to make the world a healthier place. It was Charles Pfizer’s vision at the beginning and it holds true today.
ブレイクスルーとイノベーションで患者の人生を変えて、創業者であるチャールズ・ファイザー(19世紀にNYで薬局を開業してました)の理念に基づいて世の中をより健康な場所にするぞ、という決意表明が見えてきます。ここでは「売上4兆円」みたいな経営指標は出てきません。
Merck: About our company – We aspire to be the premier research-intensive biopharmaceutical company in the world. For over 130 years, Merck (known as MSD outside the U.S. and Canada) has been inventing for life, bringing forward medicines and vaccines for many of the world’s most challenging diseases in pursuit of our mission to save and improve lives. We demonstrate our commitment to patients and population health by increasing access to health care through far-reaching policies, programs and partnerships.
メルクは社風としてサイエンスに対する格別なこだわりがあると言われているのですが、そのあたりのプライドがresearch-intensive biopharmaceutical company in the worldに表れています。ミッションは「to save and improve lives」で、薬だけではなくてワクチンにも注力するよと宣言し、アクセスについての言及があるあたりが、医薬品価格の高騰と、ワクチンビジネスをしているので発展途上国に対する配慮が見えてきます。
(続く)
「引用」1)第12回日本製薬医学会年次大会::医師・研究者に必要な知識とスキル―製薬企業でのキャリアを伸ばすために