【インタビュー】白ケ澤 智生さん

インタビュアー

DDCPのウェブサイトではまず先輩識者のインタビューを作ったのですが、是非医師以外の方がどのように企業内医師のことを見ているのか、どういった期待があるのかをもっと知りたいという声が出てきました。DDCPでの活動を通じて様々な方とおしりあいになるうち、アステラスで白ケ澤さんが企業内医師の採用や教育に大変協力的なことが際立っていたので、是非お話を聞いてみたいと思いました。どうぞよろしくお願いします。それではまず、アステラスに入られたきっかけなど伺えますか?

白ケ澤智生さん

私は大学で免疫薬品学という講座で免疫応答について研究していました。プログラフ、プロトピックという名称で今販売されているタクロリムスがFK506というコード名で授業でも出てきていて、当時の藤沢薬品にあこがれて入社しました。開発志望で採用されましたが、当時開発本部内にあった市販後のグループにて市販後エビデンスの整備、構築を17年やっていました。

インタビュアー

社内医師を増やしていきたいと思われたきっかけについて教えてください。

白ケ澤智生さん

様々な業務の中で社内MDがもっと活躍できる場があるのではないかという印象を持っていました。私だけというわけではなく、トップマネージメントの中でもそのように感じていたと思います。ちょうど2017年に開発に移り、GCPなどの研修担当になり、たくさんの方と交流があったこともあり、2018年に社内MDの活用に関して考えるフォーラムを立ち上げることとなりました。

インタビュアー

社内MDが有効活用できていないという事ですが、どのように変化すれば有効と考えられるのか例を挙げてご説明いただけますか?

白ケ澤智生さん

はい。例えば研究所と開発の間の壁をMDの方が低くしていくことができるのではないでしょうか。研究所の年間目標というのは年間いくつシーズを出したかです。そしてそれを受け取って開発する方はいかに短期間で承認を得るかという事が目標です。そこに乖離があったのです。開発のほうから見たら研究所からあげられたシーズを一体どう開発していいものやら頭を悩ませることもあったわけです。そこで早くから開発が関与する必要性が言われたのですが、研究所側が知りたいことは、どこに unmet medical needsがあり、何を目指してシーズを出していったらよいのかという事でした。ここに社内でメディカルインプットができる人が必要なんです。これは研究所でのシーズの段階ですのでパテントの取得前であったりして、とてもconfidentialityの高い話になることがわかっているので、社外に持って行って素早くアドバイスを受けるのが難しいのです。そこで“教えてMD”という社内メールの仕組みを立ち上げました。

インタビュアー

それは面白い試みですね。もっとお話を聞かせてください。

白ケ澤智生さん

この“教えてMD”というのは会議体ではなくて気軽に尋ねられるフォーラムをあえて用いました。MDの業務としてそれをやるというわけではなく、興味があるときに答えるというような。医者として働いてきた方々は困っている人がいれば助けてあげたい、貢献したいという気持ちが強いのでしょうか、ボランティアの活動として定着してきました。そのほうがコミュニケーションの促進という意味でもプラスだったようです。

インタビュアー

なるほど。そこは内資系の強みのように思えますね。なかなか外資系では決められた職務から離れてお手伝いしに出ていくのは難しいことも多いかもしれません。また、外資系では日本に研究所を持っているところがほとんどありません。そういった貢献分野を探している医師の方にはアステラスは魅力的かも。

白ケ澤智生さん

本社である日本のアステラスをもっと魅力的な働き場所として医師を増やしていきたいという切実な思いもあるのです。アメリカではメディカルアフェアーズや開発のリーダーはMDです。中国でも開発部隊はMDが率いています。アステラスは日本とアメリカの二つのハブを置くことにしていますので、日本でMedical機能を拡充することは急務だと思っています。

インタビュアー

MDというだけではなくリーダーをやっていけるMDが日本にも必要なのですね。

白ケ澤智生さん

そうなんです。組織の中で働くビジネスバランスの取れた医師を育てるという事が必要で、組織再社会化と呼ばれるキャリア変更の際にはこれまで培ってきた組織感を一度リセットする必要があると言われています。医師の方も自分は給料に見合った貢献をしているのか悩んでおられることも気が付きましたし。社内医師に関わる課題の解決、またそもそも社内医師を増やすためにはどうしたらよいかを考えるタスクフォースが立ち上がりました。

インタビュアー

白ケ澤さんご自身が企業内医師の魅力みたいなのに触れたご経験というのを聞かせていただけると嬉しいのですが。

白ケ澤智生さん

今この医師採用のタスクフォースを一緒にやってくださっている藤田さん(先輩識者インタビュー参照)と話をしたときに、ビジネスの中にあってもその言葉の選び方だとか考え方が違うなあと感じました。何か意識の高さというか。様々な医学的なアドバイスを受けるときにもちろん外に持っていくこともあるのですが社内MDの場合はより真剣に考えてもらえます。当然、自分の組織のことですので自分事のように親身になってくれます。社外MDアドバイザーの場合はネガティブな指摘は少なく「なかなかよさそうですね」といわます。でも社内MDの場合はダメなものはダメとはっきり言ってくれます。

インタビュアー

それは社内MDの場合は自分も当事者でそこに責任がありますからね。ほかにも何かあるでしょうか?

白ケ澤智生さん

そうですね。社内の会議体にMDが入ってくることによってメディカルの視点が入ってきてより患者さんに使われるときに目指す方向性みたいなものを感じることがあります。それまでは会議体のスコープにもよるのですが、operation、feasibilityの視点に重きをおいた開発・メディカルプラン、ストラテジーを立てていたような向きがありました。それから最近社内の人脈を広げていくというか、もっと社内にMDがいるという事を肌で感じてもらいたいという事で新しい活動を始めました。”meet MD”という活動でMDの方にいろいろな部署に出向いて行ってもらって雑談をしてもらうといった趣向です。自分の近くにMDの方がいることによって仕事が面白くなると感じてもらえたらと考えています。MDの方にも同じように色々な部署のこと、そこで働いている人のことについて知ってもらって意思疎通をより促進するといった利点があると思います。

インタビュアー

それも内資系の強みがにじみ出ている感じがしますね。研究所が充実している、そこと開発の橋渡しに医師の役割が見いだせるというのは基礎に強い日本の医師の方には魅力的だと思います。また内資系の会社ももちろんグローバル化に対応していかなければいけないので、そういう意味でも医師の活用に積極的であることが感じられて力づけられました。どうもありがとうございました。