【インタビュー】藤田修平さん

インタビュアー

こちらの先輩識者のインタビューはDDCPのウェブサイトでは一番人気になっていますが、多くの方が外資系の製薬会社にお勤めです。本日は大手内資系アステラスで仕事をされている藤田先生のお話を楽しみにしています。それでは、まずどうして企業に入られたかについてお聞かせください。

藤田修平さん

国立がん研究センターで博士課程の研究として白血病の研究をしていました。そこで主に動物を使った実験をしていましたが、日本の製薬企業と共同研究をする機会がありました。非臨床試験における薬効評価を見るような実験でしたが、その結果がなかなか良かったので、アメリカで発表する機会に恵まれました。会社は国際開発をしたいと思っていたようで、アメリカでの発表がそういったきっかけを作ってくれればと感じていたようです。

インタビュアー

それは大変ラッキーな経験でしたね。発表はどうでしたか?

藤田修平さん

そこでの発表は好意的に受け取られ、結構な反響がありました。MD Anderson のHematologyの重鎮の先生が一緒に治験をやりたいと言ってくれたりして、こういうところから開発が始まるんだと知りました。そして薬の開発という世界があり、それを進めるのが企業なんだという事に気が付きました。それまでは臨床や研究以外に医師の役割があるという事にあまり関心を持ったことがありませんでした。

インタビュアー

アメリカでの研究発表が視野を広めるきっかけになったのですね。

藤田修平さん

はい。しかし他のことにも気が付きました。その日本の会社はいい研究をしていい結果を出しているし、日本でよく知られている大手だけれど、アメリカでの認知度がそれほど高くなかったんです。でもよいデータを出せば日本の会社でも世界が振り向いてくれて、国際開発をしていけるんだという事が大きな気づきでした。それから、製薬企業で働いてみたいと思い、内資系、外資系の製薬企業のインタビューを受けることになりました。

インタビュアー

そこで内資系に決められた要因は何でしたか?

藤田修平さん

日本は特に基礎研究が優れていると思います。しかしその研究を薬として実用化する橋渡しの機能が足りないと思います。そういった橋渡しをしていくところにも医師としてのインプットが必要だと感じています。外資系はそういった機能を日本の中にはあまり持っていないように感じました。その反面、内資系企業には日本での基礎研究からグローバルに広げていくというチャンスがもっとあるのではないかと感じました。それがアステラスを選んだきっかけです。

インタビュアー

アステラスに入られてどのようなお仕事を始められましたか?

藤田修平さん

医薬品開発のGlobal Medical Leadという仕事でした。3か月間シカゴに行かせてもらって、開発で働いている医師の人たちに多く会うことができました。2年間その仕事をして1年前にメディカルアフェアーズに異動になりました。

インタビュアー

今はメディカルアフェアーズなのですね。どのようなお仕事ですか?

藤田修平さん

市販後の薬の価値を高めることはもちろんですが、臨床をしている医師とのコミュニケーションからニーズを吸い上げて、新しい薬の開発、使い方を作り上げていくことに携わっています。今の部門では現在4名の医師が働いています。実臨床での経験やインプットが非常に重要な部門であり、医師としての経験が活かしやすいという意味では企業未経験の方にも向いていると思います。

インタビュアー

医師以外の方はどのようなバックグラウンドでしょうか?

藤田修平さん

大体開発を経験した方に来てもらうことが多いですね。セールスの方から来てもらうとうケースもありますがコンプライアンス上問題があるという考え方があり、少し難しいところがあります。また研究のほうから来てもらう事もありますが、その場合は臨床の視点から少し離れていると感じることがあり、それなりの臨床に近い業務経験が求められることがありますね。

インタビュアー

開発とメディカルアフェアーズは共通点がありますね。企業に来られて4年目、何かお感じになることはありますか?

藤田修平さん

今の時代、製薬企業はブロックバスターを開発していくような戦略ではやっていけません。日本が世界に出ていくためにはもっと医学的見地に基づいた戦略を立てる必要があると感じています。日本の強みの基礎研究をもっと医薬品開発に生かしていくことができるはずです。そのためにはtranslational Medicineにもっと人材が必要です。人材はいるのに必要なところにいないと感じます。アカデミア、企業の人材交流をもっと盛んにする必要があります。

インタビュアー

人材の交流をもっと盛んにして、起業家を育てようという政府の後押しもあり、大学もそういった講座を作り始めていますが、医師の世界はまだ閉鎖的に感じます。何が人材交流を妨げているのでしょう?

藤田修平さん

日本の社会構造とも関係あるかもしれませんが、一つには医師が製薬企業を下に見ているというような日本の特質があると思います。共同研究というと、アカデミアは企業からの資金を得るという短絡的な観点だけでなくて、もっと広い視点に立った協力関係を築いていくべきだと思います。日本人は真面目な民族です。その真面目さをイノベーションにも生かしていき、創薬・製薬産業を日本の経済基盤として打ち立てていくこともできるはずです。アカデミアから生まれたベンチャー企業を実際に運営・経営してていくのは大変なことです。そのためにアカデミアはもっと企業から学ぶことができると思います。医薬品として実用化していくために何百億円というお金が必要で、パズルを合わせていくようなプロジェクトにはチームが必要、そしてプロジェクトマネージメントといったチームでの協働作業が必要です。そういうことを学び実際に運営していくためにも人材交流は役に立つはずです。

インタビュアー

真面目さプラス強い基礎研究をイノベーションにつなげていく必要がありますね。若い医師の方に対して何かアドバイスはありますか?

藤田修平さん

広い視野をもって、気づきを大切にしてほしいと思います。今知っていることとは違う形での貢献の方法・対象を模索してほしいですね。多くの患者さんを診ることだけが医師として貢献できる分野ではありません。製薬企業で働いて、医師としての知識や経験を活かし国の経済に貢献することもできます。自分が社会の一部であることに気づき、社会の基盤の一つを担っている、そして自分が影響力をもっていると気づくことが大切です。それがやりがいにつながります。製薬企業ではいいモノを作ったというだけでは終わりません。そこで働く医師には組織を引っ張っていく力量が期待されます。そのためには高いコミュニケーション能力が求められます。そういったところに自分が向いていると感じる人にはとても面白い仕事ですよ。

インタビュアー

それでは最後に内資系の強みについてお聞かせください。

藤田修平さん

やはり、研究、開発、導入導出などのビジネスデベロップメント、そういったビジネスのコアになる部分が日本にそろっていて、それに触れられるという事ですね。規模では外資系企業に負けてしまうこともあると思いますが、業務内容の充実度や新たなビジネスの創出といったことに興味のある方にはチャンスがとても多いように思います。

インタビュアー

そうですね。日本で外資系で働いていた私もそういうところに触れたくて、アメリカに来たという経緯があります。ありがとうございました。